週刊SPA!2018年6月12・19日合併号
昨年から今年にかけて、残虐な動物虐待のニュースが続いている。5月8日にも、滋賀県長浜市で首に麻のロープが巻かれた猫の死骸が見つかった。5月6日には千葉県船橋市で、子猫の頭部と、尻尾が切られた子猫、頭部や前足が切られた子猫とみられる3匹の死骸が発見された。船橋市では昨年12月にも、頭部のない猫とみられる肉片が見つかっている。
さらにネット上の巨大掲示板「5ちゃんねる」の「生き物苦手板」などでは、虐待動画・画像へのリンクが多数貼られ、虐待体験やその手法などが“妄想”という建て前で書き込まれ、野放し状態にあることが問題となっている。
◆どんなにひどい虐待をして殺しても、実刑はほとんどつかない
「いまの動物虐待に対する刑罰は、軽すぎます」
こう語るのは、動物環境・福祉協会(Eva)の松井久美子事務局長。代表は女優の杉本彩さんがつとめている。昨年、Evaは13匹の猫の虐待・殺害を行った元税理士の初公判と判決を傍聴した。
この元税理士は、熱湯を何度もかける、ガスバーナーで焼くなどの方法で13匹の猫を殺す過程の動画を、ネットの掲示板に投稿していた。その動画は一部で「芸術作品」と賞賛され、今もネット上にアップされている。
「私たちはその判決を聞いて愕然としました。懲役1年10か月・執行猶予4年。あれだけ残虐な方法で殺したのに、実刑にはなりませんでした。彼は今までと変わらず普通に生活している。2匹の猫の虐殺動画を投稿した元契約社員に至っては、略式起訴となり罰金たった20万円で済んでいるんです。
動物虐待は、見逃せばどんどんエスカレートしていきます。現に元税理士も『動画を投稿したら掲示板で持ち上げられ、虐待がエスカレートした』と語っています。これだけ刑が軽いと、再犯の可能性も高くなるのではないかと危惧します」(松井事務局長)
現在の動物愛護管理法(動愛法)によると、動物を殺傷した場合には「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」。動物を遺棄・虐待した場合は「100万円以下の罰金」となっている。つまり、どれだけひどい虐殺をして何匹の動物を殺したとしても、初犯で実刑となることはほとんどない。
「警察庁も動物虐待について深刻な犯罪だと認識していますが、法定刑がより厳しい他の生活経済事犯の取り締まりに人員をとられてしまい、動愛法事案にまで手が回りません。だからこそ、これを全体的に厳罰化することが必要です。残虐に殺した者は、実刑になるようでなければ。今のままでは、動物の命が軽すぎます」(同)
Evaでは今国会で審議される予定の動愛法改正に際して、動物を殺傷した場合には「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」、動物を遺棄・虐待した場合は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」に引き上げるよう求めている。
◆動物虐待事案を専門的に扱う、アニマルポリスの設置を
さらにEvaでは、「アニマルポリスの設置」を提言する。
「現在の警察には、動物に関する専門知識を持って捜査できる体制がありません。イギリスやアメリカ、オランダなどでは、動物虐待事案を専門に捜査する部門、通称『アニマルポリス』が設置されているんです。警察ではなく、捜査・逮捕権限を持った民間の機関が行っている場合もあります。
このアニマルポリス設置によって、捜査をすばやく着実に行え、虐待だけでなくネグレクト(飼育放棄)も取り締まることができます。また専門の部署ができることで、一般市民が虐待を目撃したときに対応する窓口にもなります」(同)
Eva代表の杉本彩さんは、これまで、日本でのアニマルポリス設立のため署名活動などを行ってきた。その成果が実り、兵庫県県警が2014年1月から「アニマルポリス・ホットライン(動物虐待事案等専用相談電話)」をスタート。全国で初めて、動物の遺棄や飼育放棄、虐待などを見つけた場合に通報するための専用窓口ができたのだ。これはまだほんの小さな一歩ではあるが、動物虐待をなくすための着実な一歩だ。
「何よりも大事なのは、動物を“物”ではなく“命”と考えること。人間の生活は、動物のおかげで助けられている部分がたくさんあります。言葉が話せない、弱い立場にある動物たちを虐待から守ることは、人間を守ることでもあるのだと思います」(同)
取材・文/SPA!動物虐待取材班