事件報道記事


<猫虐待殺傷事件初公判>駆除が一転、猫への復讐と残虐殺害動画が目的に

大矢誠

週刊女性2017年12月19日号

http://www.jprime.jp/articles/-/11219

猫13匹を虐待し殺傷、動物愛護法違反の罪で逮捕、起訴された元税理士・大矢誠被告(52)の初公判が11月28日、東京地裁で開かれた。 

生まれたときから猫と一緒に育ったので被害にあった猫とうちの猫がだぶって……」 

 母親と傍聴券の抽選列に並んだ中学2年の男子生徒(14)は涙をにじませた。 

 今年8月に事件が発覚すると、その残虐さへの怒りや類似犯を抑止するためにも「大矢被告に懲役刑を」と、厳罰を求める署名がスタート、21万筆以上が集まった。 

 訴状によると、被告は昨年3月から今年4月まで、埼玉県深谷市内で猫を捕獲。鉄製の檻などに閉じ込めて熱湯をかけたり、ガスバーナーであぶるなど虐待し9匹を殺害、4匹に重傷を負わせた。被告はその虐待行為を撮影、インターネットの動画共有サイトに投稿していた。被告は起訴内容を認めた。  

 また、証拠調べでは検察が「被告いわく、警察の取り調べで“駆除した”との供述は言い訳だった。猫の糞尿被害から駆除したかったのは事実だが、いつしか動画が目的になった」と明かした。 

 大矢被告が初めて猫を虐待したとするのは昨年3月だが、発端は2年前にさかのぼる。 

「'15年4月、さいたま市見沼区に引っ越しました。その家で野良猫から、糞尿や飼っていたメダカや金魚が殺される被害にあいました」(被告) 

 被害が増えた夏ごろ猫への対策を考える一方、残虐な方法で虐待されている動画をほぼ毎日閲覧したという。 

 '16年2月末、手を噛まれたことで猫への嫌悪は悪化。 

「完治にも時間がかかり、仕事にも影響、猫へ憎しみや恨みを覚えた」(同) 

 さらに、自らが管理していた深谷市の事件現場となった住宅でも「猫の糞尿被害などにあった」と、供述する。 

「当初は捕まえて放そうかと思っていたが、戻ってくる可能性もあるし、次の土地で糞尿の被害を起こしては大変、殺すしかないと思った」(同) 

 3月、鉄製の檻に閉じ込めた猫1匹に熱湯を浴びせたのが惨劇の始まりだった。

 東京猫医療センターの服部幸医師に話を聞いた。 

「熱湯で受けた広範囲のヤケドは猫も自然に治るわけではありません。治療をしなければ命に関わります」 

 一方、被告がケガをした後に会ったという人物は首を傾げる。 

「そんなにひどい傷なら会ったときにわかると思うけど、何も言ってなかった」 

 服部医師も、 

「猫は何もしなければ噛みつくことはほぼないと言えます。無理やり捕まえたり、何らかの嫌がることをしたときに噛みつかれたのでは」 

 と推測。噛まれたことは自業自得の可能性もある。 

 大矢被告は被告人質問の中で懲役刑を求める21万筆の署名について問われると、 

「私に対する断罪、殺された猫の声を、心を痛めた人の声を聞きなさいということだと思います。贖罪の気持ちを持って生きていきたい」 

 弁護士の質問に淡々と答えていた被告だが、検察官から撮影した動画を見たときの心情を問われると、 

「噛んだ猫と違うが最初は溜飲を下げるものだった。後半はインターネットの情報を参考にしながらだった」 

 裁判長の「猫が死んでいくところを見て楽しかったか?」という質問には、 

気分はよくなかった。後半は残虐に殺して動画に上げるのが主目的になった」 

 さらに、「なぜ続けたのか」との問いに、 

「あの……どっかで被害を言い訳にしながら殺めていた」 

 一転して焦りがにじみ、歯切れが悪い。

  検察側は「常習的で悪質、計画的で残虐な犯行。駆除目的とは考えられない。猫を虐待することに楽しみを覚え、再犯のおそれもある」と、懲役1年10か月を求刑した。 

 一方、弁護側は猫への嫌悪感が重なったことに事件の発端があり、過激な虐待動画が正常な判断を失わせたと強調。贖罪の気持ちやほかの事件の判決事例との比較を訴え、執行猶予を求めた。 

 判決は12月12日。被告は、傍聴席に背を向け、視線を向けることはなかった。動物関係の法律に詳しい大本総合法律事務所の石井一旭弁護士は、 

被告は初犯、刑が3年以下なので実刑の可能性は低い。執行猶予がつくことは次に何かすれば今回の刑も加算されますし、悪いことはできないという鎖をつけることです」 

 

 公判後、被告の実家を訪ねた。門は閉ざされ、この家にひとりで暮らす母親から話を聞くことはできなかった。 

 古くから近隣に住む男性は、 

「大矢被告はお母さんと顔が似ていて、逮捕されたときも昔の面影がありました。私は子どもたちを連れて遊びに来ただいぶ前に会ったきりです」 

 大矢被告の母親を知る近隣の女性は、中学生のころの被告を覚えていた。  

「礼儀正しい普通の子でしたよ。お母さんが“息子はお役所に勤めている”ってうれしそうに言うのをだいぶ前に聞いたことがあります。自慢の息子さんだったようです」 

 現在、被告は無職で就活中。 

「大矢氏は10月に税理士を自主廃業しました。私たちが処分したわけではありません」 

 と、関東信越税理士会の担当者は話す。被告の自宅近くに住む女性は、 

「今は家族と一緒に住んでいるみたいでベランダに洗濯物が干してあるのを見ます。家族はどんな気持ちで接しているんでしょうね」 

 被告を知る人物はこんな発言を聞いていた。 

「駆除だった、と自分の正当性を主張していました。話し方も上から目線で反省しているのか半信半疑でしたね」 

 事件が社会や家族に与えた影響は大きい。